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連載・コントロールレバー:第8回「ミックスコンポーネントに挑戦しよう(後編)」

連載・コントロールレバー:第8回「ミックスコンポーネントに挑戦しよう(後編)」

今回のテーマは、以前ご紹介したフロントシングル専用ディレイラーを活用したカスタマイズです。
フロントシングル専用ディレイラーがどのようなディレイラーであるかは既にお伝えしていますが、改めて一度その機能や背景などを確認しましょう。
その上でメーカーやモデルによってどのような違いがあるのか、いくつかのモデルを実際に取り付けて比較してみます。

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フロントシングルディレイラーについて

第5回で登場したフロントシングル用ディレイラーですが、具体的にどのようなものかを確認しましょう。

登場の背景

フロントシングル専用ディレイラーはその名の通り、フロントのチェーンリングが1枚の場合にのみ使用できるディレイラーです。

フロントシングル専用ディレイラーのルーツはMTB用のディレイラーだと言われています。
近年のスプロケット多段化に応じて、前のギヤが1枚のチェーンリングだけでも対応できるようになり、現在ではフロントシングル専用のリアディレイラーとして進化を遂げています。

昨今においてはグラベルバイクにもフロントシングルが採用されるなど、更なる広まりを見せています。

特徴

スラント角が無い

主な特徴の内一つとして、フロントシングル専用ディレイラーの場合は、ガイドプーリーを真横方向に動かします。
つまりディレイラーにスラント角がつけられてなく、ガイドプーリーがスプロケットの斜面に沿って動く事ができません。

そもそも従来のディレイラーにスラント角が付いている理由は、スラントパンタ機構を取り入れているためです。
この機構があるからこそ、ガイドプーリーがスプロケット上のどの位置にあっても一定の変速性能が保たれるようになります。
ただし、スラント角はスプロケットに対して適正な角度である必要があり、大きすぎても小さすぎても、トラブルの原因となります。

従来のディレイラーの場合、スラント角に合ったスプロケットを選ぶ必要がある。
スラントパンタ機構についての詳細はこちら

ガイドプーリーが前後方向に動く

もう一つの特徴は、ガイドプーリーの位置をスプロケットの内側から外側へ逃がすように、または外側から内側へ呼び込むように動かす事で、スプロケットとの適正距離を保っている点です。

ガイドプーリーの軸がテンションアームの軸と大きくズレているため、テンションアームの回転に連動してガイドプーリーの前後位置を動かす事が可能になります。
(フロント変速をするとテンションアームの回転でガイドプーリーの位置が変わってしまうため、フロントシングルならではの設計となります。)

フロントシングル専用ディレイラーが変速する様子。パンタアームは真横に動くのに対し、テンションアームの回転によってガイドプーリーを外側から内側、内側から外側にずらし、スプロケットとの間隔を保つ仕組み。

以上の2点から、従来のリアディレイラーとは全く違う設計である事がお分かりいただけたかと思います。

過去にもフロントシングル専用ディレイラーについて掘り下げています。合わせてご覧ください。

持ち味を活かす

先に述べた特徴を踏まえ、EQUALコントロールレバーとフロントシングル専用ディレイラーの組み合わせると、どのような楽しみ方ができるでしょうか。

まず、フロントシングル専用ディレイラーの「ディレイラーにスラント角が無くても変速ができる」という事は、考え方を変えると「スプロケットの縛りがない」と捉えられます。
つまりは「一つのディレイラーで、従来より多くのスプロケットを使う」ことも可能になります。

そして、より多くのスプロケットが使えるフロントシングル専用ディレイラーに、より多種のディレイラーを使用できるEQUALコントロールレバーを組み合わせれば、相乗効果でカスタマイズの選択肢を更に広げる事が可能です。
検証として、カンパニョーロ・エカルのリアディレイラーに最大25Tのロード用スプロケットを組み合わせて運用する事も出来ました。

また、「ロード用」と「グラベル用」といったように2組のホイール・タイヤ・スプロケットを用意しておけけば、ホイール交換だけでどちらの状況にも素早く対応する事も可能になるでしょう。
タイヤやスプロケットを交換するよりも、作業が比較的楽に済みますね。

勿論、スプロケットによってチェーンの適正な長さが変わったり、変速性能ディレイラーが対応可能な最大スプロケット歯数を超えないように注意する必要はありますが、ディレイラーもスプロケットも、妥協せずに好きなものを選ぶ事ができるので、カスタマイズの幅が広がる事でしょう。
総じて、フロントシングル専用ディレイラーはコントロールレバーと相性の良いパーツであると言えます。

通常、CampagnoloのEkarは最大36T~44Tのスプロケットに対応するが、これをシマノの11-25Tのスプロケットと組み合わせてみた。純正のスプロケット(9-36T、9-42T、10-44T)に比べ、かなり小さなサイズだが、ガイドプーリーがしっかりと追従する事で変速性能が保たれている。

フロントシングル専用ディレイラーのTips

ここでは、EQUALコントロールレバーとフロントシングル専用リアディレイラーを組み合わせる場合のTipsを紹介します。
取り付け方法に関して、特に注意すべきポイントを取り上げています。

※基本的な取付に関しては、使用するディレイラーの取付マニュアルをお読みください。

チェーンの長さを決める

フロントシングル専用のディレイラーは従来のディレイラーに比べて大型です。

そのため、ディレイラーを従来のものからフロントシングル専用の物に変えただけだと、チェーンの長さが足りず、ガイドプーリーとスプロケットの隙間を狭められなかったり、ロー側のスプロケットまで変速できなかったりする場合もあります。

チェーンの長さ(コマ数)の決め方はロードやMTBのディレイラーと異なる事が多いので、必ずディレイラーのマニュアルを確認した上で長さを決めましょう。

また、ロード用のチェーンリングとMTB用のスプロケット・フロントシングル専用ディレイラーを組み合わせるような使い方は、チェーンが非常に長くなります。
場合によっては通常のパッケージ1個分(概ね114~118コマ)では足りない場合もあるので、その場合はチェーンを更に継ぎ足して、適切な長さにする必要があります。

アジャストボルトの調整

ディレイラーをバイクに組み付け、正常に動かすには、次の3カ所の調整をする必要があります。

  • スプロケットとガイドプーリーの間隔
  • ロー側スプロケットの動作限界位置
  • トップ側スプロケットの動作限界位置

これらの調整方法は基本的に従来のリアディレイラーと同様です。
基本的にはこれらのネジの締め具合で調整する事ができますが、極端に最大スプロケット歯数を大きく変えたりする場合、ディレイラーのアジャストボルトを回しても調整し切れない可能性があることに注意が必要です。
(例:最大50Tスプロケットに対応したディレイラーと最大23Tのスプロケットを組み合わせる場合など)

今回の検証では幸いにもそのような例は確認できませんでしたが、アジャストボルトを通常よりも遥かに奥まで締めこんだり、逆に抜ける寸前まで緩めたりする様な状況がありました。
前回において「ミックスコンポーネントは±1段を目安に」とお伝えしたのには、実はこのような背景もあります。

調整ボルトの配置はメーカーやディレイラーのデザインによって異なるので、事前に確認しておくこと。
(左:Campagnolo Ekar  右:SHIMANO CUES)

主要メーカー3社の比較

ここまでで、フロントシングル専用ディレイラーについてある程度ご理解いただけたでしょうか。

前回、前々回ではバイク紹介のコーナーでしたが、今回は少し趣向を変え、主要メーカー3社のフロントシングル専用ディレイラーを実際に組み付けて色々とチェックしてみました。

結論としては、いずれも優れたディレイラーとなっており、EQUALコントロールレバーとの組み合わせは良好です。
ですので、最終的に何を選ぶのかは見た目や予算などで決めるのが良いでしょう。

①    SHIMANO / CUES(10/11速)

3社の中で最も扱いやすいと感じたのがシマノのCUESでした。

その理由は、チェーンの暴れを抑止するスタビライザーを、スイッチでオン・オフの切り替えができるからです。 バイクが上下に揺れるオフロードではオンにしてチェーン落ちやフレームへのダメージを防ぎ、路面の安定したオンロードではスタビライザーを切る事で、駆動抵抗や変速操作を軽くする事が可能です。

個人的に面白いと思ったのは、MTB用のリアディレイラーであるにも関わらず、ワイヤーアジャスターが取り付けられている仕様です。
通常であればワイヤーの調整はブレーキ・シフター側にあるアジャスターを使うので、MTB用のリアディレイラーとしては非常に珍しいです。
EQUALコントロールレバーと組み合わせる場合にも使い勝手が良く、とても好印象です。

スタビライザーのオン・オフが切り替えられるため、非常に使い勝手が良い。普段からシマノのディレイラーを使っている場合は、取り合えず選べば間違いはないはず。

難点を挙げるとすれば、ケーブルのルーティングです。ディレイラーの外側からケーブルを挿入する設計になっており、これが少々厄介でした。
と言うのも、撮影に使用したフレームが内装したケーブルをリヤエンド上部から真後ろに出す設計になっています。このケーブル出口が、CUESのように外側からケーブルを引き込む設計のディレイラーと非常に相性が悪いのです。

つまり通常通り組もうとすると、非常に短い距離でケーブルを方向転換させてディレイラーに取り付ける必要がありました。

今回の対処としてはフレーム内装を諦め、フルアウターにして、フレームの外を這わせてケーブルを引きました。
少々不格好にはなりましたが、このようにミックスコンポーネントを行う際には、時にこのような問題に直面する場合がありますが、そういった問題にも積極的に受け入れられるような気持ちで挑むと、カスタマイズの一つ一つも楽しめるかも知れませんね。

ピンクのテープが貼られた部分が本来ケーブルを出す場所だが、距離が近すぎるばかりか、ディレイラーに引き込むための方向転換がきつく、自然なケーブルラインを確保できない。やむを得ずフルアウターとなった。

②    SRAM / NX EAGLE(11速)

スラムはオフロードバイク市場におけるシェアが大きく、特に北米では多くのユーザーからの支持を受けています。
数あるメーカーの中ではグラベル用・MTB用のフロントシングル専用ディレイラーを多く世に出している実績があり、多くのノウハウがあると言えるでしょう。
SRAM NX EAGLEは、そんなスラムの技術力を比較的手ごろな価格で体験する事が出来ます。

NX EAGLEはSRAMのクオリティをお手頃価格で体験する事ができる。

外側の斜め上方向から差し込むケーブルルーティングはSHIMANOのCUESと同様です。
ただしこちらは、ケーブルを引き込んだ後にプーリーとレールを使い、最終的に外側に排出するような軌道になっています。
ワイヤーの摺動抵抗を抑えつつ、合理的なケーブルの取り回しになっていると感じました。
その分、ワイヤーをプーリーに通したり、レールに乗せたりするには少し手間であると感じる方がいるかも知れません。

他にもSHIMANOのCUESとは異なり、固定したワイヤーの先端がホイールのスポークと接触しにくくなっている点はよく考えられています。

スタビライザーは常時オンの状態ですが、ホイールの着脱がスムーズに行えるよう、テンションアームの回転軸付近にアームの動きを固定するストッパーが装着されています。
こういった点も、ノウハウが蓄積された結果と言えるでしょう。

存在感溢れる大型のボディはスラムならでは。モダンなバイクにマッチするゴツゴツしたデザインで、他社にはない魅力を感じました。

本体上部から通されたワイヤーは、プーリーとレールを伝って方向転換した後に外側に出される。

③   CAMPAGNOLO / Ekar(13速)

サイクリスト永遠の憧れ、カンパニョーロ。
そのグラベル用コンポーネント「エカル」のディレイラーは、現存するコンポーネントの中で最多段数の13速に対応しています。

洗練されたルックスは流石のイタリアンブランド。
所有欲を満たしてくれるデザインは非常に魅力的です。

洗練された設計だけでなく見た目の美しさも相まって、ディレイラーとしての完成度が高い。

スタビライザーのスイッチが無いかわり、テンションアームのスプリングが強めに設定されており、本格的なグラベルライドにも対応しています。

ブラケット部分には、ディレイラー全体を持ち上げたまま固定するロック機構があり、ホイールの着脱が簡単に行えます。

ケーブルのルーティングは真後ろに大きく回り込んでから前方へ向かい、途中で右側にカーブするような軌道になっています。

デザインだけでなく設計においてもあらゆるフレームに適合しており、非常に好印象でした。

バイクの後方からケーブルを迎え入れ、レールを伝って外側に排出される。

ワイヤーの張りが甘いとレールから脱線しやすい点は気になりましたがが、きちんと張れば問題ないでしょう。
各アジャストボルトにはカンパニョーロ特有のイモネジが採用されています。通常のボルトよりも舐めてしまいやすいため注意が必要です。精度の悪いアーレンキーは使わない方が良いでしょう。

ディレイラーを後ろに持ち上げるとディレイラーを固定できる仕組みになっている。各部の調整はイモネジを回して行う。

まとめ

今回のおさらい

  • フロントシングル専用リアディレイラーは、スラント角に頼らずに変速を行う仕組みになっている。EQUALコントロールレバーと組み合わせる事で、多様なスプロケットにも対応する事ができるため、非常に親和性の高いディレイラーだと言える。
  • 取り付け方法については通常のリアディレイラーと同様だが、チェーンの長さで変速に影響するため、ディレイラーのマニュアルを必ず確認すること。
  • フロントシングル専用ディレイラーをメーカー毎に確認した。いずれのモデルにも特徴があるが、今回紹介した内容を参考に、自分に合ったものを見つけて欲しい。

最後に

さて、コントロールレバーの発売を記念して始まったこの連載ですが、今回で終了となります。
記事を通じてお伝えした内容は、EQUALコントロールレバーの楽しみ方のほんの一部に過ぎません。
真の楽しさを発信できるのは我々ではなく、実際に使う皆さま一人一人です。
我々が考えもしなかったアイデアでパーツを組み合わせ、あなただけのバイクを是非とも完成させてください。

最後まで読んで下さった皆様へ、心より御礼申し上げます。


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