EQUAL コントロールレバーの謎を解き明かし、魅力を発信していく連載企画。
前回では、変速機にはインデックス式とフリクション式の2種類がある事がわかりました。
今回のテーマは副題にもあるとおり、コントロールレバーは何故、メーカーやコンポーネントの垣根を越えたパーツの組み合わせができるのでしょうか。
そして、その謎を解き明かすため、連載3回目にして遂に、コントロールレバーの内部を覗いていきます。
果たして、どのようになっているのでしょうか。
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 | 第7回 | 第8回
外観
まずはコントロールレバー本体の外観を見てみましょう。
見た目に関しては、他社のレバーとあまり大きな違いはありません。
ですが、外から見えない内部機構に決定的な違いがあるのです!
それこそが、コントロールレバー最大の特徴「ステップレス変速」になります。
ステップレス変速とは、前回のコラムでお伝えした変速方式の「フリクション変速」に該当するものです。
かつてのWレバーのように、摩擦力を利用してケーブルの引きや、ディレイラーを固定したり、動かしたりする、昔ながらでシンプルな仕組みです。
そのため、レバーを倒した分だけディレイラーも動く、無段階での変速動作が行えるようになっています。
ステップレス変速のメリット
そんなステップレス変速は、どういった点に魅力があるのでしょうか?
この答えについては、つまるところフリクション変速のメリットそのものとも言えます。
フリクション変速のメリットについては前回、前々回で触れていますが、インデックス変速が登場してからは、主役の座を奪われる形になりました。
レースシーンが高速化し、スプロケットは多段化し、よりスピーディーな変速が要求され、更にはコンポーネントの電動化など、目まぐるしい進化の波に、フリクション変速はなす術なく吞まれていきました。
では果たして、フリクション変速はもはや不要なのでしょうか?
この疑問に対し弊社は「NO」であると考えています。
現代のインデックス変速はスプロケット枚数が多く、誰でも高性能で細やかな変速ができるようになった反面、運用には繊細な調整を求められるようになりました。
もしもあなたが週末に友人とサイクリングをしていた時に、自分だけ変速の調子が悪くなった場合は、折角の気分が台無しになってしまうかもしれません。
また、あまりに最適化されすぎた変速事情は、互換性に乏しく、パーツ選択肢が大きく絞られてしまいました。
言い方によっては、メーカーに使う道具を「選ばされている」状況下にあるのかもしれません。
しかし、コントロールレバーのステップレス変速なら話は別です。
フリクション変速なら、例えばリアディレイラーの変速調整をする時に、ワイヤーアジャスターを一度回すか回さないか、と言った微妙な調整は必要ありません。
また、たとえ前後のディレイラーやスプロケットの段数が違っていても、シマノ、カンパニョーロ、スラム…どんなメーカーを合わせても、MTBとロードの組み合わせでも、使えるようになるのです。※
つまり、通常ならあり得ないパーツの組み合わせが可能になったのです。
今日においてステップレス変速は、そのメリットを飛躍的に大きく伸ばしていると言えます。
(※コントロールレバーに関係しない、最低限の制約があります。)
ところで、コントロールレバーの前の時代にも、同類のフリクション式シフターはいくつもありました。
それらと比較すると、Wレバーのようにブレーキレバーから手を離さなくても変速ができます。
また、バーエンドコントローラー(バーコン)やサムシフターのような過去のフリクション式シフターとも異なり、ブラケット内部に変速機構を内装している事も特徴です。
つまり、現行のインデックス式レバーのように、ブレーキレバーに手を掛けながら変速動作ができるので、非常に画期的なレバーとなっています。
では、このステップレス変速はどのようにして実現しているのでしょうか。
さらに掘り下げていきましょう。
コントロールレバーで変速を行うには、ブレーキレバーに沿って並ぶレバーAと、本体の内側から小さく出ているレバーBの2本を使って操作します。
レバーAを動かす事で、ワイヤーを巻き取り、逆にレバーBではワイヤーの送り動作が行われます。
例えばリアディレイラーを動かす場合、レバーAがシフトダウン、レバーBがシフトアップ、という事ですね。シマノのSTIのように大小のレバーが隣同士に並んで同じ方向に動くのではなく、カンパニョーロのレバーと同様に小レバーが内側にあり、大レバーとは逆方向に、親指で押す点が特徴的です。
実際、試乗会でコントロールレバーを体験されたお客様からも、「これ、カンパみたいだね」とおっしゃっていた方がとても多い印象でした。
さて、そんなコントロールレバーですが、中身はどのようになっているのか気になりませんか。
内蔵部品
この写真では本体を上下逆さまにし、アンダーカバーを外して内部が見えるようにしました。
ここが正しくコントロールレバーの心臓部であり、社内では「臓物」と呼ばれている部分です。
写真中央にある、ネジの付いた部品(点線で囲った部分の右側)がケーブルプーリーです。
ケーブルプーリーはその名の通り、ケーブル(ワイヤー)の末端部分(タイコ)を引っ掛け、その状態で回転させる事により、ケーブルを巻き取ったり、逆に送ったりすることができます。
ケーブルプーリー
ケーブルプーリーは17mmから24mmまでの5種類のサイズが用意されています。
ケーブルプーリーのサイズを変える事で、レバーの操作感を変える事もできます。
例えば、普段18.5mmを使っていて、20mmにサイズアップした場合、1段変速するのに必要なレバーストロークが小さくなりますが、レバーの操作感が重くなります。
逆に、1サイズ小さい17mmmのものに変えると、1段変速するのに必要なレバーストロークが大きくなりますが、レバーの操作感が軽くなります。
接続する機器の操作に必要な巻き取り量が確保できる範囲で、好みのケーブルプーリーサイズを使用してください。
さて、このケーブルプーリーはどのように動くのでしょうか。
レバーとプーリーの動きの関係を図に示しました。
写真の右からレバーA、ケーブルプーリー、 インデックスアーム、そしてレバーBです。
これらの部品は、中心を1本のシャフトが貫通しています。
なので、レバーA/Bが倒される事により、シャフトも連動して同じ方向に回転します。
(なお、インデックスアーム に関しては、またの機会に紹介したいと思います。)
さて、レバーA/Bを動かしている様子を動画で撮影しました。
レバーの動きに合わせて、ケーブルプーリーが動く様子がおわかりになるかと思います。
更に、ここで注目すべきポイントが2点あります。
一つは、A/Bどちらかのレバーを倒した時に、もう片方のレバーには力が伝わっていない事です。
そしてもう一つは、A/Bどちらかのレバーを倒した状態から元に戻すとき、他の部品はいずれも動いていない事です。
倒したレバーが元に戻る理由は、レバーの根元部分に仕込まれたリターンスプリングによるものですが、ならばその際に他の部品が、倒したレバーと同様に、元の位置まで戻らないのは何故でしょうか。
クラッチ
その答えは、レバーA/Bの内部に装備されたクラッチです。
この部品こそ、コントロールレバーがステップレス変速を可能にしている秘密です。
クラッチについてはフリーボディや、インデックスシフターのラチェット機構のように、「一方の力は受け止め、もう一方は受け流す」特性があるという話を以前にもしました。
しかし、この特性はあくまでも一般的なワンウェイクラッチの特性です。
既存のクラッチとの大きな違いは、コントロールレバーのクラッチには、外輪と内輪の間に「スイッチリング」という部品がある事です。
スイッチリングは、クラッチの片面から外側に突出しており、レバーが操作される瞬間に外部の部品と接触する事で、内部のクラッチローラーが外輪・内輪と接触できるようにする為のものです。
このスイッチリングの概念が、既存のクラッチにはありませんでした。
そのため、グロータックは独自のクラッチを開発しました。
イラストを交えて、コントロールレバーのクラッチの動きを詳しく見ていきましょう。
レバーに触れていない時は、内部のクラッチローラーが外輪と噛み込んでおらず、内輪に固定された軸は自由に動ける状態です。
そのため、クラッチにもかかわらず、一方向どころか、どちらの回転方向にも空転してしまいます。
しかし、レバーを操作しようと触れた瞬間、スイッチリングが外部の部品と接する事によって、外輪と内輪でズレが生じます。
このズレにより、クラッチローラーが外輪と内輪に噛み込まれた状態になり、外輪の力が内輪(と軸)に伝えられるようになるのです。
逆に、レバーから手が離れると、その瞬間にクラッチ内部の噛み合いが解除され、内輪と外輪は別々に動けるようになります。
そのため、レバーの戻り動作で、もう片方のレバーやその他の部品が動く事はないのです。
また、このクラッチには双方向性があるため、コントロールレバーのレバーA/Bのように、軸を回転させる方向が異なる場合でも、同様に軸を回転させたり、逆に空転させることができます。
ここまでの内容を理解した方なら「既製品のクラッチを互い違いに使えばレバーA/Bを動かせるんじゃないの?」と、考えた方もいるかもしれません。
しかし、この場合はレバーのクラッチが切れず、操作したレバーが戻ってこない為、動きが破綻してしまいます。
この問題を回避するために、レバーへの入力を解放した時、すぐさまクラッチが切れるような仕組みにしなくてはなりませんでした。
そのため、スイッチリングを搭載した、オリジナルのクラッチを開発する必要があったのです。
開発と言えば、コントロールレバーではクラッチだけでなく、様々なパーツが共に開発されることになりました。
詳細については、こちらをご覧ください。
まとめ
最後に、今回のポイントをおさらいしましょう。
- コントロールレバーのステップレス変速は、無段階でケーブルを操作できるフリクション式。
- ステップレス変速ができる理由は、内部に仕込まれた独自開発のクラッチによるもの。
いかがでしたか。
クラッチの概念は只でさえわかりにくい上、独自開発のスイッチリングが備わった事で、より難解なものになってしまいました。
しかし、これこそがコントロールレバーの真相なのです。
ご理解いただければ幸いですが、「やっぱりよくわからない!」という方も少なからずいらっしゃるかと思います。
そのような方の為にも、弊社では今後の戦略として、試乗会や展示会など、皆様が実際に体験できる機会を継続的に設け、コントロールレバーの魅力をこれからも伝えていきたいと考えております!
ありがとうございました。次回もご期待ください!
(終わり)