今回からは実践編です。
皆さんがコントロールレバーを使って、グループセットの枠を超えた組み方をされる場合、是非とも知っておいていただきたい知識を共有します。
また、最後には皆さんのイメージを高められるよう、コントロールレバーを実際に組み付けた弊社のカスタマイズバイクをご紹介します。
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規定
コンポーネントは使用する上で、いくつかの規定を守る必要があります。
その中で今回ピックアップするのは、ディレイラーのキャパシティとスラント角についてです。
これら2つが守られている事が、コンポーネントを適切に動作させる上で重要になります。
キャパシティとギヤ歯数差を読む
ディレイラーのキャパシティと前後それぞれのギヤ歯数差を比べる事で、自分がこれから取り付けようとしているスプロケットやディレイラーなどが使えるか否かを判断できる一つの基準になります。
キャパシティという言葉はメーカーによって意味や呼び方が異なるため、本項では独自に「フロントディレイラーのキャパシティ」、「リヤディレイラーのキャパシティ」と区別した呼び名にしています。
同様にギヤ歯数差に関して、前ギヤを「チェーンリング歯数差」、後ギヤを「スプロケット歯数差」、それらを合計した「全体歯数差」と呼んでいます。
チェーンリング歯数差
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最大チェーンリング歯数から、最小チェーンリング歯数を引いた差の数値です。
この値がフロントディレイラーのキャパシティ(後述)を超えていなければ、基本的には問題ありません。
スプロケット歯数差
最大スプロケット歯数から、最小スプロケット歯数を引いた差の数値です。
全体歯数差
チェーンリング歯数差と、スプロケット歯数差を合計した値です。
この値が、リアディレイラーのキャパシティ(後述)の数値を超えていなければ、基本的には問題ありません。
フロントディレイラーのキャパシティ
フロントディレイラーが、インナーからアウターにチェーンを持ち上げたり、逆にアウターからインナーに落とす事ができる能力を数値で示したものです。
メーカーによって数値が公開されている事が多いです。
(例)最大チェーンリング歯数53T、最小チェーンリング歯数39Tで、フロントディレイラーのキャパシティが16Tである場合
- 53 – 39 = 14より、チェーンリング歯数差は14T。
- 14 ≤ 16なので、チェーンリング歯数差はフロントディレイラーのキャパシティ内
よって、この組み合わせで通常通り使用することができます。
チェーンリング歯数差がフロントディレイラーのキャパシティを超えると、スムーズに変速できないのは勿論、チェーンがディレイラーのガイドと接触したり、チェーン落ちが頻発したりといった不具合の原因になります。
例えば、アウター53T、インナー39Tの構成でチェーンリングを取り付けていたとします。
もしもそこから、登りで楽をしようと思ってインナーだけ34Tに交換してしまうと、チェーンリング歯数差が53-34=19Tとなり、運用面で支障が出るので注意が必要です。
因みに、フロントトリプル専用ディレイラーはキャパシティの概念に加え、対応するアウターギヤ歯数が固定だったり、アウター・ミドルギヤ歯数差が規定されていたりするため、グループセットのクランク・フロントディレイラー以外で組み合わせるのは難しいでしょう。
リアディレイラーのキャパシティ
リアディレイラーがチェーンのたるみを取る能力を数値化したものです。
この数値はメーカーサイトのカタログに書いてあることが多いですが、中には記載がない場合もあります。
そういった場合は、グループセット内のスプロケットやチェーンリングから、数値が最も大きくなるチェーンリング歯数差、スプロケット歯数差を出し、合計した全体歯数差から、おおよそのキャパシティを求めましょう。
リアディレイラーのキャパシティに収まっているか否かを判断するために、以下の流れで歯数差を確認します。
(例:最大チェーンリング歯数53T、最小チェーンリング歯数39T、最大スプロケット歯数34T、最小スプロケット歯数11T、フロントディレイラーのキャパシティ16T、リアディレイラーのキャパシティ41T以上である場合)
- チェーンリング歯数差を求める。
(53 – 39 = 14より、チェーンリング歯数差は14T。) - チェーンリング歯数差と、フロントディレイラーのキャパシティを比べる。
(14 ≤ 16より、フロントディレイラーは正常に使える。) - スプロケット歯数差を求める。
(34 – 11 = 23より、スプロケット歯数差は23T。) - 1と3の数値を合計し、全体歯数差を求める。
(14 + 23 = 37より、全体歯数差は37T。) - 全体歯数差とリアディレイラーのキャパシティを比べる。
(37 ≤ 41より、リアディレイラーは正常に使える。)
リアディレイラーのキャパシティを超えてしまった場合、場合によってはチェーンが弛み、チェーンステーとチェーンが接触するポジションが出てくるといった不具合が起こる事が予想されます。
ディレイラーのスラント角
スラント角とは
変速によってリアディレイラーが動く時の傾き具合の事をスラント角と呼びます。
このスラント角をスプロケットの刃先のラインに沿わせる事で、ガイドプーリーが変速の時にスプロケットの歯先と適切な距離を保ちながら、左右に移動する事ができます。
この距離を保つことがいかに重要であるかは、以前にも説明しました。
(詳しくは第4回の「スラントパンタ機構」をご覧ください。)
何故スラント角が重要なのか
スラント角を無視した組み合わせをした場合、つまりディレイラーの対応するギヤ歯数に合わないスプロケットを使おうとすると、トラブルの原因となります。
例えば、ロード用スプロケットにMTB用ディレイラーの組み合わせでは、ディレイラーのスラント角が大きすぎて、ローギヤに行くに従ってガイドプーリーが離れてしまい、本来の変速性能を発揮できません。
逆にMTB用スプロケットとロード用ディレイラーの組み合わせだと、ディレイラーのスラント角が小さすぎて、ギヤを軽くする途中でディレイラーがスプロケットと接触してしまいます。
よって、ロード用のスプロケットにはロード用のディレイラーを、MTB用のスプロケットにはMTB用のディレイラーを組み合わせる必要があります。
スラント角に合ったスプロケットを使うには
まずはリアディレイラーが対応する最大のローギヤ歯数や、最小のトップギヤ歯数を確認しましょう。
これらに適合したスプロケットを選んで使えば、上記のようなトラブルは回避できるはずです。
少々厄介なのは、リアディレイラーが対応するトップ側・ロー側それぞれの最大・最小ギヤが、カタログやメーカーサイトに明記されていない場合がある事です。
ロー側の最大歯数のみの表記(”MAX COG : 36T” など)だったり、或いは全く記載されていない場合もあります。
このように情報が不足している場合は、グループセットのスプロケットを参考にして選ぶと良いでしょう。
その場合は、ロー側の最大歯数だけでも純正と一致していれば、多少ズレていても比較的スムーズに変速できる場合が多いです。
コントロールレバーを使った実例
ここからは、コントロールレバーならではのカスタマイズをひとつ紹介します。
ドライブトレインのスペック
以下の通り、メインコンポ-ネントは全てシマノで統一しつつも、ロード用とMTB用を合わせたミックスコンポーネントの構成になっております。
通常、ロード用コンポーネントとMTB用コンポーネントの組み合わせは、ワイヤーの引き量が異なるなど、パーツ互換性が無いため使う事はできません。
しかしコントロールレバーのステップレス変速ならば、ワイヤー引き量の違いを気にする必要はありません!
加えて、今回紹介したキャパシティの概念が、このようなミックスコンポーネントを可能にしています。
詳しく見ていきましょう。
- クランク:ロード11速用 50-34T
- フロントディレイラー:ロード11速用 *1
- チェーン:ロード11速用
- スプロケット:MTB11速用 11-42T
- リアディレイラー:MTB11速用 *2
*1 フロントディレイラー(DEORE XT FD-M8000)のスペック
キャパシティ:16T
*2 リアディレイラー(DEORE XT RD-M8000-SGS)のスペック
キャパシティ:47T
最大フロントギヤ歯数差:18T
こだわりポイント
最大42Tの特大スプロケットを備えたロードバイクです。
平坦から激坂まで、アウターで乗り切る事が可能になります!
ドライブトレインのスペックより、このバイクの各歯数差は以下の通りとなります。
- チェーンリング歯数差:アウターの歯数-インナーの歯数=50-34=16T
- スプロケット歯数差:ローギヤの歯数-トップギヤの歯数=42-11=31T
- 上記より、全体歯数差は16+31=47T。(リアディレイラーのキャパシティと同値。)
よって、この組み合わせで問題ありません。
全体歯数差がリアディレイラーのキャパシティ上限に達してはいるものの、数値を超さずに守られているからこそ、今回のようなミックスコンポーネントでも、きちんと動作させる事が可能となっています。
また、リアディレイラーには最大フロントギヤ歯数差18Tが規定されていますが、実際のチェーンリング歯数差が16Tと規定内であるため、チェーンがどのギヤの位置でも動くようになっています。
スタッフインプレッション
ロードのコンパクトギヤに、MTBのワイドなスプロケットという組み合わせですが、意外と使いやすいと感じました。
ワイドレシオなMTB用のスプロケットなので、変速した時にギヤ比の変化が大きく、ケイデンス調整は慣れが必要です。
その代わりに、余程の激坂でなければアウターのままで走り続ける事ができるので、不思議と自分がパワーアップしたような気分になり、走っていてとても気持ちが良いです。
また、疲れた時にはフロントをインナーギヤに落とす事で、脚を回しているだけで走り続けられるのも魅力です。
タイヤを変えれば、グラベルライドも楽しめるのではないでしょうか。
まとめ
今回のおさらい
- ディレイラーにはキャパシティの概念が存在する。特にリアディレイラーに設定された全体歯数差の計算式を覚えておく事で、使えるか否かが手元に無くても判断できる。
- キャパシティだけでなく、リアディレイラーのスラント角に合ったスプロケットを使う事も重要。迷ったときはグループセットの組み合わせを参考に、ディレイラーの対応する最大ギヤ・最小ギヤ、キャパシティなどを推測して選ぶ事。
- コントロールレバーを使って、ロード用のものとレバー比が異なるMTB用のディレイラー・スプロケットを組み合わせる事が可能であると証明した。リアディレイラーのキャパシティや、最大フロントギヤ歯数差といった規定が守られているため、トラブルを回避する事ができている。
さて、次回は後編です。
- 今回スラント角についての話をしましたが、フロントシングル専用ディレイラーはスラント角がある?ない?
- ギヤの段数が違うと、何が違うのか?
- 実例紹介では、EQUALコントロールレバーを使ってシマノ&カンパニョーロのミックスコンポーネントを実現!
ご期待ください。
(続く)