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連載・コントロールレバー:②変速機が動く仕組み(インデックスとフリクション)

連載・コントロールレバー:②変速機が動く仕組み(インデックスとフリクション)

EQUAL コントロールレバーの謎を解き明かし、魅力を発信していく連載企画。
まず初回では変速機の基礎知識を、その歴史と共に学びました。

今回のお題は、コントロールレバーを理解する新たな手がかりとして、変速機の2つの変速方式、「インデックス」「フリクション」について学んでいきましょう。

カタカナがどんどん増えてきましたが、頑張ってついて来て下さいね!

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機械式変速の基礎知識

リアディレイラーはバネの力で外側に移動しようとする。

現代の機械式変速の多くは、ディレイラーのバネの張力を利用しています。
バネの張力は、フロントディレイラーならインナー側に、リアディレイラーならトップ側に動こうとする力が働きます。
(なので、自転車に長時間乗らない時はインナーXトップの位置にディレイラーを動かしておくと、バネやワイヤーの伸びが最小限で済み、機材を長持ちさせる事に繋がります)

つまり変速は、ワイヤーを引いたり戻したりして、適当な位置にディレイラーを移動させているのだと考えて下さい。

シフターとディレイラーで、ワイヤーを引き合っている。

さて、さらっと基礎知識を学んだところで、自転車の変速方式についてのお話に移ります。

自転車の変速機は大きく、インデックス式フリクション式の2種類に分けられます。
では、それぞれどのような違いがあるのかを見ていきましょう。

インデックスとは

まずは、現在もっとも世に普及しているインデックス式の変速についてです。
インデックス(index)とは、直訳すると「索引」を意味します。
変速における索引とはどういう意味なのでしょうか。

一般的な機械式変速機を使った事がある人は、ワイヤーを巻き取る動作(リア変速であればシフトダウン)の際に「チッ、チッ」という音は、誰しもが聞いたことがあるでしょう。
あれは、レバーの内部に組み込まれているラチェット(爪 )によるものです。

ラチェットの基本構造

「一方の回転方向への力は受け止め、逆方向への力は受け流す」。
これがラチェットの基本的な仕組みです。
シフターのラチェットは、ワイヤーで繋がれたディレイラーのバネの力によって、常に赤の矢印方向に歯車が回ろうとしていますが、歯車の歯が爪に引っかかっているため、動きません。
ワイヤーを巻き上げる(シフトダウンの)時の歯車の動きは、逆に青の矢印方向に回ります。
この時に、ラチェットの爪が歯車の歯を越えた直後、隣の歯の谷部分に接触して音が鳴っているのです。
このときの爪は、何度でも同じ位置になります。
逆に、ワイヤーを送る(シフトアップ)の時は、ラチェットの爪を歯から離して、歯車を逆方向に動かしていきます。
この時の爪の移動先は、シフトダウンと逆方向にひとつ隣です。
変速の瞬間が音や感触で伝わり、何度動かしてもディレイラーの位置は同じ。
インデックスとは、機械的にディレイラーの位置が固定化されることです。
また爪が歯を乗り越える瞬間の音や感触でもわかりやすくなっています。

ここまでの説明で、
「もしラチェットの爪が歯車を離したら、その瞬間に一気にワイヤーが引っ張られないの?」
と疑問に思った方はいませんか?
その点に関しても、ちゃんとメーカーは考えられています。

シマノのデュアルコントロールレバー内蔵部品。シフトダウン用の他、シフトアップ用の爪・歯車が別々に存在する。

ここで、シマノのデュアルコントロールレバーの内蔵部品を見てみましょう。
デュアルコントロールレバーには、ブレーキ・シフトダウンを行う大レバーと、シフトアップを行う小レバーの計2本のレバーがあり、それらの根元には、これほどまでに細かなパーツが一纏めにされています。
肝心のラチェット部分を見てみましょう。
歯車が2つ並んで付いているのがおわかりいただけるでしょうか。


◆SHIMANO デュアルコントロールレバーでのシフトアップのイメージ図◆

①ニュートラル状態。シフトアップには歯車が時計回り方向に動く必要があるが、青の爪が歯と噛み合っているので歯は回らない。
②シフトアップのレバーを倒した状態。
青の爪が歯から離れ、歯車はワイヤーに引かれて時計回り方向に回る。
しかし、同時に逆側の赤い爪が歯と接して、過剰な回転を制御する。
③シフトアップのレバーを元に戻した状態。
②赤の爪が歯から離れ、青の爪が再度歯を押さえ、変速が完了する。

大レバーが倒された時(シフトダウン)は単純で、ラチェットが力を逃がす方向に回転し、ケーブルプーリーも歯車と供に回っているので、ワイヤーが巻き取られて変速する、という仕組みです。

逆に小レバーが倒された時(シフトアップ)は、実写では部品が細かすぎてわかりにくいので、簡略化したイラストで説明します。
まず、ニュートラル状態の時に歯と接している青の爪が起こされます。
そのままではワイヤーが一気に引っ張られてしまうので、逆側の赤の爪が歯を押さえます。
この瞬間のタイミングが絶妙で、1段だけ歯の位置をずらしつつ、押さえられるようになっています。
そして、レバーの位置が元に戻った時、青い爪が再度爪を押さえ、変速が完了します。

…と、ここまで精巧な仕組みになっていた事、皆さんは想像していましたか?
(部品の配置、数など、図では相当に簡略化しているので、参考までにお考え下さい。)

今日において、私たちが乗る多段ギヤ式自転車のほぼ全てがインデックス式変速を採用していると言って差し支えないでしょう。
理由はインデックス式のメリットそのもので、感覚的なコツや経験則的なものに頼る必要がなく、誰でも同じように変速機を扱えるからです。
この事については、前回もお話ししましたね。

SHIMANO DURA-ACE STI / デュラエース STI(1型)
シマノは1990年にブレーキレバーに変速機械を組み込んだSTI(シマノ・トータル・インテグレーション)レバーを発表した。DCL(デュアルコントロールレバー)とも言う。
STIの試作品を1989年9月に初めてレースで使用し、1990年末に発表した。8速用でインデックスシフトのみ。シフトワイヤーはSTIレバーの内側側面から出る方式で、これは7800系のSTIレバーまで続いた。

発売年:1990年~1996年
引用元:Derailleurs of the World SHIMANO編 | CAMBIO工房

半面、インデックスにも弱点はあり、精密な動作にはシビアな調整が不可欠です。
特に、昨今はスプロケットが10,11,12,13…と多段化している現代の変速機は、枚数が増加に伴ってギヤ同士のピッチも狭まり、ますます難しいものになってきました。
ちょっとした事で調整が少しでも狂えば、たちまちどこかでスムーズに変速できなくなってしまうのが悩みの種だったりします。
電動シフトが主流になっているのは、単純に便利という他にも、こういった背景もあるんですね。
定期的かつ適正なメンテナンスを受けてこそ実現する、正確で素早い変速。
以上が、インデックスシフトについての説明です。

フリクション

インデックスに対して、もう一つの変速方式が「フリクション」です。
フリクション(friction)とは、「摩擦」を意味します。
フリクションと言えば、自転車メディアでの高性能なブレーキやシフトワイヤーの宣伝で
「特殊加工により、フリクションロスを○%削減する事に成功」
といった謡い文句を目にした事はありませんか?
フリクションロス、直訳では「摩擦抵抗」となりますが、変速機における摩擦とは、一体どういう意味なのでしょうか。

SHIMANO SL-R400(フロント側)の内蔵部品。

現行で手に入る数少ないフリクションシフターとして、SHIMANOの8s用WレバーのSL-R400(フロント用)を例に見ていきます。
先に述べたように、大前提として変速機のバネの力でワイヤーが不意に引き戻されて、変速してしまうようでは役に立ちません。
そこで、Wレバーではディレイラーの位置決めに、レバー本体の部品同士が接する事で生じる摩擦力を利用しています。

もう少し詳しくお話しすると、Wレバーは軸の部分を中心に、一連のパーツがまとめて挟みこまれています。
このとき、動作の肝にあたるのは内部の摩擦板。
ここが適度に締めこまれている「摩擦力」事が重要です。
具体的には、手の力で動かす事ができ、なおかつ手を放しても動かない程度です。
この時に働く「摩擦力」を利用して、レバーを任意の量だけ動かすことができます。
これが、フリクション式変速の理屈です。
一言で言うなら、「ネジで締めこんでいるだけ」の単純な構造です。
でも、これほどに単純な構造だからこそ、フリクション式変速は長きにわたって定番でした。

内部でこすれ合う摩擦板はシフターによって様々ですが、SL-R400では写真右下の銅板がその役割を担っています。
また、このレバーの優れているところは、鉄球がギザギザ面の上を転がる事で、ゴリゴリした操作感が付加されるところにあります。
これにより、どの程度動かしたかが乗り手に伝わりやすいようになっています。
流石シマノは、他のメーカーよりも一歩先を行く存在。
我々も見習わなくてはなりません。

コントロールレバーならシビアな調整も不要。

フリクションシフトのメリットは、何と言っても面倒な変速調整が不要な事です。
レバーの傾き具合で変速を行うので、好みの位置にディレイラーを移動する事ができます。
特に、インデックス式にありがちな、「○段→○段のシフトアップだけが何故か決まらない」といった事もありません。
(ハンガーが曲がっていたり、ドライブトレインのパーツが摩耗していると起こりがちですが、きちんと整備していても何故か上手く決まらなかったりするんですよね…)
勿論、基本的な調整(※)は必要になりますが、大雑把な操作で行う「アナログ感」が気持ち良いと感じる人もいるはずです。
また、「エイ、ヤー」と思い切ってレバーを倒して、5段くらい一気にシフトアップ・ダウンする事も可能です。

更に、MIXコンポでの使用などにも対応し、スプロケットの段数さえレバー側が対応していれば、互換性がなくても変速が行えることも魅力的です。

(※ ディレイラーのトップ側、ロー側調整やBテンションなどの事。これらについては改めて説明します。)

SHIMANO SL-7400 NEW DURA-ACE / NEW デュラエース(4型A)
デュラエースで初めてのインデックスシフトレバー。NEWデュラエースと呼ばれる。リアは6速インデックスシフトと、フリクションシフトの切り替えができる。直付け台座はシマノ用とカンパ用がある。フロント側は引きの軽いライトアクションシフトで、30度のオフセットを付けて操作しやすくしている。

発売年:1984年~1986年
引用元:Derailleurs of the World SHIMANO編 | CAMBIO工房

しかし、昔ながらの仕組み故に操作が独特で、慣れるまでにはコツが必要です。
このデメリットについては前回もお伝えしましたね。

メリット・デメリット比較

さて、ここまでインデックスとフリクションの違いをざっと説明してきました。
大まかに表にまとめると、以下のように分けられるかと思います。

メリットデメリット
インデックス式・デジタルな動きで素早く、正確な変速。
・誰でも同じように操作できる。
・多段ギヤほど変速の不調が起こりやすい。
・互換性に乏しく、パーツの選択肢が少ないものも。
フリクション式・アナログな動きで互換性に余裕がある。
・シビアな調整が不要。
・正確さでインデックスに劣る。
・慣れるまでに練習が必要。

これは単純に、どちらが優れている・劣っているという話ではなく、インデックスとフリクション、どちらにも良し悪しがあり、それらを理解した上で、自分にとって適した方を選ぶべき、という事です。

世の自動車のほとんどがオートマチックになりましたが、マニュアル車が完全に無くなった訳ではありません。
その理由は、マニュアルにはマニュアルの魅力があり、需要があるからだと考えています。
フリクションもそれと同じ、現代のスポーツサイクルでインデックスが当たり前となっても、フリクションの魅力は変わっていません。
ましてや、これは趣味の世界の話。
自分が好きなものを選べる・使えるという、選択肢がある事が重要だと考えています。
多くの方にEQUALレバーの魅力が伝われば幸いです。

さて、今回はここでお終いです。
次回はいよいよ、コントロールレバー本体を覗いていきたいと思います。

ご期待ください!

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