「実走とローラー台は全然違う」
「固定ローラーには実走感がない」
自転車の室内トレーニングにおいて、よく議題に上がるこのテーマ。
特に、新型コロナウイルスによって、このテーマを再認識した方も多いのではないでしょうか。
グロータックは、自転車のスキルが向上するローラー台を作り出すため、日々開発に励んでいます。
そこで、代表の木村と交流もある自転車トレーナーの福田昌弘さんに、グロータック製品の実走への有効性を伺うため、インタビューを行いました。
しかし、その回答はグロータックの思惑とは違った回答になることに・・・。
「身体の使い方がわかっていれば、ローラー台は何でもいい」
自転車トレーナーである福田さんが語る、実走につながるローラー台でのトレーニングとは?
後編は、体の使い方を覚えたらどのような効果があるのか、ローラー台でのトレーニングにて意識すると良い点、グロータックのローラー台についてを伺いました。
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「体の使い方」を覚えれば、「楽に走る」ことが出来る
福田昌弘さん(以下、福田):無駄な力を使うトレーニングをしていても、力自体は付きますけど、力の持続が出来ないですよね。
グロータック 木村(以下、木村):そう。現役時代は通勤で毎日往復100km走っていたから、適当に踏んでいると体力も持たなくて仕事にも影響がでるし次の日走れなくなっちゃうから、なるべく効率的な走りを習得しようと日々努力してたね。
福田:僕もパワートレーニングを必死にやっていたときは、無駄な力を使うことに一生懸命がんばっていたんです。その頃はパワーメーターが高ぶれしてたのもあって、FTP320Wくらいあったんですが、ツール・ド・おきなわ140kmに出場すると、毎回同じところで脚が攣って千切れてました。でも今はFTP280Wくらいに上げておけば、先頭集団で完走出来てしまうんです。しかも以前は体重は63kgでしたが、昨年は69kgというだらしない体重で参加して先頭集団で完走ですからね。
木村:自転車の乗り方をまとめた良い本を福田さんが出してくれているからね。今はそれを読めばね、だいぶ近道(笑)。今まではそんな情報はなかったから、ひたすら死ぬような努力の果てに、自分の中で気づきがあって習得していったわけだから、大変だよね。
福田:習得出来た人は残りましたけど、習得出来なかった人は自転車に乗ること自体がつらいから続かないんですよね。
木村:そうだね。そこの段階で脱落していく人はかなり多いと思う。
福田:僕も、ここまで来るのに時間がかかって、たどり着いた時には自転車のトレーニングを一生懸命する気力がなくなってましたけど(笑)。でも、今ぐらい走ることが出来れば、おじさんになっても十分楽しいですよ。
木村:なるべく早い段階でそのスキルを身に着けておけば、長く楽しめるのは間違いない。
──私も最近はコロナウイルスの影響もありましたが、正直トレーニングとして自転車に乗るのが辛くなっていたので、一時期に比べてだいぶ乗らなくなってしまいました。
福田:僕も以前は、脚は攣るし、常に身体のどこかが痛いからマッサージに通ったりして、身体もお金もツライから、毎年自転車やめようかなという気持ちになっていました。 でも今はどこも痛くならないし、特にどこかが凝ったりもしないからマッサージにも全く行ってないんですよね。昔は自転車に乗ること自体が辛かったですねえ。
──自転車に乗る体の使い方を習得すれば、体のケアにもなるってことですね。
福田:そうですね。全身にバランスよく力が入らないと局所的に力が入ってしまうんです。局所的に力が入ってしまうということは、その部分ばかりに負担がいって疲弊してしまうので、痛み等が発生してくるんです。バランスよく全身に力を分散するスキルを身に付けつつ、その状態で徐々に負荷をかけてトレーニングをしていくと、痛み等にも悩まされづらくなると思います。多くの人が、そのスキルが身についていないまま数値目標をもとに頑張ってしまうので、体が限界を迎えてしまう。体に負担がかかる辛いトレーニングをしないためにも、まずそのスキルをつけることを最初にしたほうが良いと思います。
ローラー台でのトレーニングの仕方
──固定ローラーでトレーニングする場合は、どのような体の使い方を気を付ければよいですか?
福田:まずはサドルに座らない練習をしたほうが良いです。例えば、スタンディングスティルをするようペダルを水平にして立ち上がってみて、脚の力を抜いてもバランスを取れる位置を見つけてみてください。そのバランスを取りながら徐々にサドルの位置まで腰を落としていくと、その位置がその人の「自転車の真ん中」になるわけです。ここがポイントなのですが、ここにサドルの位置を調整します。そうすると、常にペダルに荷重できる位置でペダリングが出来るようになります。
──ベストなサドルの位置を見つけることが出来るんですね。
福田:そうですね。短いレースならこの位置でOKですが、長距離のレースの場合、少し位置を後ろにしたほうが楽なので、サドル位置を1cmくらい後ろにすると良いでしょう。長距離レースは座って休むという場面も出てくるので。
木村:自分の場合は、オフロードの場合はその位置にして、オンロードの場合は1.5cmくらい後ろにするね。
福田:そうしてサドルの位置を出して、その位置を意識したまま固定ローラーでもトレーニングをしてください。例えば、ケイデンス50回転程度のSFR等をやってみましょう。その際、SFRだからといって力任せに体を動かすのではなく、上半身の重心は動かさずにペダリングしてください。SFRのようにケイデンスが遅いと、ペダルに乗っていないと大変になるので、自然とペダル荷重のペダリングになります。それに、さっきの片手離しを組み合わせても良いですね。
この感覚が掴めたら、同じポジションで10分乗ってみてください。ハムスタースピンのオンライントレーニングで動画を送ってもらうのですが、たった10分が出来ない人が多いです。我慢できずに、体の重心をいろいろ動かしてしまうんです。上半身の重心は動かさずにペダリングを続けられるようになってください。
この間行われた仮想Mt.富士ヒルクライムで別府選手の中継がありましたけど、別府選手は全く上半身が動かずにペダリングしていました。
──3本ローラーやGT-Roller Q1.1も同様に重心を動かさないほうがいいんですよね。
福田:そうです。そこは変わりません。ただ、固定ローラーは固定されているから自由に体を動かしやすいので、結果、人間は楽なほうへ慣れようとするので、重心を動かしてしまいます。逆に3本ローラーやGT-Roller Q1.1は、不安定が故に重心を動かすことが難しいので、自然とペダルに乗せたペダリングになる傾向にあります。特にGT-Roller Q1.1は3本ローラーに比べて、前輪側にも荷重しないと安定しないので、その傾向が強い方向という点で良いと思います。
ただし、何度も言いますが、人間は練習すれば悪い方向にも出来るようになってしまうため、GT-Roller Q1.1に乗っていても、常に自分の中で基準を決めて練習したほうがいいですね。動画に撮るなどして定期的に自分のペダリングを見直して見ると良いと思います。
ローラー台の行く末について
木村:ローラー台を開発してて思うのが、「ローラー台に求められる正解」ってなんなのだろうかと。パワーを出せることと、体を使えることは全く別なわけで。
福田:固定ローラーだからこそ出来る高い負荷というのもあるわけで、正直なところ、どんな乗り方でもいいからパワーが出しやすいローラー台のほうが、世の中には求められてると思いますよ。それを良しとするかは、メーカーの開発思想なので。グロータックのラインナップとしては、実走につながる製品というメッセージのほうが僕はいいと思いますけどね。
木村:うちのローラー台はゲームのコントローラーとしてのローラー台ではないことは確かで。実走が上手くなるローラー台でありたいし、そこは外せない開発コンセプトではあるんだけど。
福田:今後はバーチャルライドの分野も広がって来ますね。昔、ランバーサポートのついているサドルとかもあったじゃないですか。UCIの競技規則とは違うので、あのサドルみたいに、ローラー台の上で身体を固定しやすくてパワーが出しやすい製品が出てくる気がしますね。筋トレ機材だとそういうものがたくさんありますからね。レッグプレスは典型的にその類のものですよね。きっとレッグプレスのような構造をローラーに応用すれば、よりパワーが出しやすい。というものも開発自体は出来ると思います。
木村:それは面白いね。もはや自転車の乗車姿勢じゃないものとかでパワー出せるようにするとかね。
福田:最近、KICKR BIKEのような一体型のインドアトレーナーって増えてきているじゃないですか。たぶんこっちのほうがパワー出せるという人は多いと思います。 最近の一体型トレーナーの構造を正確には把握していないのですが、変速機が無いものも多いですし、チェーンではなくてベルトドライブを使っているものも多いようです。 チェーンや変速機だと、チェーンをたわまないように引っ張り続けるペダリングをするのに、かなり技術が必要なんですよね。
木村:上死点と下死点を上手く回さなくてもいいからってこと?
福田:そうですそうです。下手なペダリング、12時の地点で踏めていない人は、チェーンがビヨンビヨンたわんでいるんですよ。たわんで、もう一度チェーンがテンション張られるまでは力がかからないわけですからその分は確実にロスですよね。それがチェーンのない一体型のインドアトレーナーだと起きなくなってくるので、これはパワーがでるぞ、ということになってきて、eSports用に特化して体幹サポートが付くとかそういう方向になる可能性もありますよね。
木村:他社がそういう方向に行っているかはもちろん別の話として、グロータックはやっぱり外を走ることがより楽しくなるためのトレーニング機材としていきたいね。
GROWTACのローラー台について
──これは完全にプロモーションとして聞くわけですが、GT-Roller F3.2等の他のローラー台に良さはありますか?
福田:GT-Roller F3.2は悪くないんですけど、僕の中では難しいトレーナーかなと思っています。前輪部分の動く部分であるモーションコントローラーの動きがシビアというか、個人的な乗り方としてはあまりしっくり来ていないんですよね。モーションコントローラーのみでいれば、GT-Roller M1.1のほうが自然に感じるので好みです。負荷の重さやかかり方はGT-Roller F3.2のほうがいいですが。
木村:人の感じ方にもよるんだけど、GT-Roller M1.1は、カーボンのしなりのみによって動きをコントロールしているから、力の入力に対して動きが自然に感じるというのはあるかもしれない。GT-Roller F3.2も基本的な構造は一緒なんだけど、しなりに対して上部でエラストマーで制限をかけているので、最初のほうは柔らかく、途中から制限がかかるから、力の入力に対しての動きが比例的ではないのが違和感になるのかもしれない。
福田:途中から硬くなるので、嫌な反発をもらう印象なんですよね。あれがあんまり好きじゃないのかもしれない。
──個人的にはGT-Roller M1.1よりもGT-Roller F3.2のほうが自然に感じます。
木村:GT-Roller M1.1のモーションコントローラーの方がはるかに硬いので、動きの量はGT-Roller M1.1のほうが少ないと思う。動きが大きいほうが自然に感じる人も多いと思う。
福田:そうなんですねー。
──展示会等でいろんな人の話を聞いても、結構意見が分かれるので、人の感じ方はそれぞれですね。
福田:とはいえ、もちろん動かないよりは動いたほうがいいんですけどね。僕は最近KICKR CLIMBを買ったんですけど、普通の前輪を載せる台よりも乗りやすいんですよね。通常の台は変な抵抗を感じてしまうんですが、KICKR CLIMBも軸がすこし動くんですよね。それが程よく処理してくれているんじゃないかと思います。
*KICKR CLIMB:Wahoo社のローラー台「KICKRシリーズ」に勾配再現を加えるオプション製品
──GT-Roller Q1.1については、追加して話せる点はありますか?
福田:先ほども言った通り、前輪に荷重できることが良い点ではあります。しかし、ある程度前輪に荷重していないと安定しないので、長時間のトレーニングが大変だなという印象です。接地点が2点になるので、前輪が動きやすく、片手離しするにしてもしっかりと保持しないといけないので、緊張感があります。前輪が動きやすいといっても、すぐに戻ってくるので、3本ローラーのようにバランスを崩すまではいかないのですが。ただ、知り合いのGT-Roller Q1.1ユーザーは、3時間とかトレーニングしていてすごいなと思うんですが、その人はGT-Roller Q1.1だからこそ長時間のトレーニングが出来るというように言っているので、それも人によるんでしょうね。
木村:LEOMOの機械を使ってGT-Roller Q1.1を分析してみて、実走と比べるとほぼ一緒なんだけど、どうやら腰の動きが少し違うというのは聞いているね。それが、そのハンドリングを抑えるという要素から、体の動きが少し制限されているのかも。それがその感覚との違いなのかもしれない。
──そこを改善出来れば、究極の実走感になるのかもしれないですね。
福田:あるいは、実走のほうが動きすぎているのかもしれなくて、逆にGT-Roller Q1.1では抑えられているという見方もあるかもしれない。
木村:実走は自由に動けるけど、ローラーの上という枠組みで走るのはちょっと違うよね。
福田:僕は一人で走る場合、白線の端ギリギリを走るとか、まっすぐ走るといった自転車コントロールの練習を必ずやるんですけど、実際、結構まっすぐ走れない人って多いんですよ。実走だと腰が動いて、自転車ごと左右にブレているのが、GT-Roller Q1.1だとそれが難しいから、抑え込むようにして走ることで自転車のコントロールの練習になっているのかもしれない。実走でも先ほど言った固定ローラーでも、いろいろな制限を付けることで、体のコントロールの練習が出来るので、GT-Roller Q1.1はそれが自然にしやすいという可能性もありますね。
木村:実走に近づけるといっても、機材というものを使う以上は、いろいろな制限が出来てくるから、一つのローラー台ですべてをカバーするというのはなかなか厳しい。だから、そのローラー台の特性を理解したうえでトレーニングしないといけないね。
福田:ほとんどの人が期待するのはおっしゃるように、乗っているだけで全部改善するというような製品だと思うんですけど、やっぱりそれに乗っているのは人間なので、自分自身で何らかの意識を持っていないと改善しないですよね。
──今回、「このトレーニングをすれば良い」というものをがあれば聞いてみたいと思っていたのですが、結局はそういった考えなしの楽なトレーニングというものはなくて、自分が何を意識してトレーニングをするべきかが重要っていうことがよくわかりました。
福田:ローラー台によっても、その意識する内容によって、何がやりやすくて何がやりにくいかというのは変わってきます。その特性を理解した上でローラーを選択するのが一番良いと思います。「ローラー台は何がおすすめか?」と聞かれたら、僕は「苦手なものを選べ」と言っています。例えば、最近の僕は5分とか10分のインターバルを全くやっていなかったので、そういったことをやりやすいトレーナーとして、安定したダイレクトドライブのトレーナーを使うことにしました。逆にチームメイトはGT-Roller Q1.1に乗って恐怖感があると言っていたので、「じゃあGT-Roller Q1.1に乗るべきだ」っておすすめしました。
木村:GT-Roller Q1.1でも恐怖感あるのかー。
福田:実際、実走でもちょっと危ない走り方すると思っていたチームメイトだったので、自転車のコントロールのトレーニングにはなると思いますよ。
木村:確かに、自転車のコントロールを手中に収めていない人はGT-Roller Q1.1でも不安定に思うのかも。
──私は普段GT-Roller F3.2を乗っているので、GT-Roller Q1.1はあまり乗り慣れていないということもありますが、たまに乗ってみるとすこし恐怖感があります。自転車のコントロールには自信はないので、そういうことなのかもしれませんね。
福田さんの選ぶローラー台は?
──最後に、様々なローラー台に乗ってきた*という福田さんですが、いま福田さんが一つローラー台を選ぶとしたら何ですか?
福田:その時の目的によって変わりますね。今はZWIFTでトレーニングをすることが多いですが、レースよりは一人でなんとなく走ってることが多いんですよね。 そうなるとスマートフォンとか見たりもしたくなるので、両手を離していても安定しているダイレクトドライブタイプが好みです。前はおそらくパワーの計測が一番正確だろうということでTacx Neo2を使っていたのですが、どうしてもKickr Climbが使いたかったのでKickrをつかっていますよ。
*所持したローラー台は10種類以上とのこと。前編以外で紹介した他社製品もたくさん乗っており、木村とあれこれ盛り上がっていました。
──そこでグロータックのローラー台が出てこない忖度なし加減がいいですね(笑)
福田:「座れる」という意味で、他社製品がいいんですよね(笑)。正直、楽なんですよ。
──今まで話してきたことと真逆な話ですよね(笑)
福田:今ローラーを乗るなら、フィットネス感覚なので(笑)。15分だけ乗ろうとしたときに、体の負担が少ない割に簡単に心肺を追い込むことが出来るっていうのがいいんですよ。これがGT-Roller Q1.1だと集中しなきゃってなるので、いろんな意味で疲れちゃう(笑)。そもそも、室内トレーニングにそこまでモチベーションがないので、気楽に乗れるということも重要な点なんです。先ほども言いましたが、何を目的にするかによって選ぶものが変わるんです。そういった意味でも、完全に自転車が固定されていることが必ずしも悪いわけではないですし、使い方さえわかっていれば、どのローラーでも良いトレーニングは出来るんです。
自転車トレーナーの福田昌弘さんに、ローラー台でのトレーニングについてお話いただきました。当初は、グロータックのローラー台の有効性を中心に話していただくつもりでしたが、お話を進める中で、忖度することのない正直なご意見をいただき、グロータックユーザー以外の皆様にも「ローラー台でのトレーニング」について、参考になる内容になったかと思います。
グロータックとしても、「みなさまに有意義な情報を届けること」を大切にしていきたいと思いますので、ほぼ伺った内容をそのまま記事にさせていただきました。
新型コロナウィルスの流行により、屋外で走ることや、室内でのトレーニングについて見直されてきています。この記事によって、少しでも皆様の室内トレーニングが豊かになればと思います。
また、今回お話いただいた中には、パワーメーターについての議論も福田さんと木村で盛り上がっていましたので、今後、特別編として公開するかもしれません。
福田昌弘
トレーニングスタジオ「ハムスタースピン」代表、日本スポーツ協会公認自転車コーチ。
大学院でペダリングの研究も行ない、海外の学会などでも発表を行っている。ただ自転車に乗るだけではなく、そのために必要な動作の解析やトレーニングを得意としている。
福田昌弘 著 『ロードバイク スキルアップトレーニング』も好評発売中!