「実走とローラー台は全然違う」
「固定ローラーには実走感がない」
自転車の室内トレーニングにおいて、よく議題に上がるこのテーマ。
特に、新型コロナウイルスによって、このテーマを再認識した方も多いのではないでしょうか。
グロータックは、自転車のスキルが向上するローラー台を作り出すため、日々開発に励んでいます。
そこで、代表の木村と交流もある自転車トレーナーの福田昌弘さんに、グロータック製品の実走への有効性を伺うため、インタビューを行いました。
しかし、その回答はグロータックの思惑とは違った回答になることに・・・。
「身体の使い方がわかっていれば、ローラー台は何でもいい」
自転車トレーナーである福田さんが語る、実走につながるローラー台でのトレーニングとは?
中編は、実走に対してローラー台の弊害とは何か、自転車にはどう乗ると良いかについて伺いました。
◆ ◆ ◆
自転車に乗るということは「ペダルに乗ること」
福田昌弘さん(以下、福田):そもそも自転車に乗車するっていうのは、体が触れている箇所が「ハンドル・サドル・ペダル」の3ヵ所なわけです。これのどこに荷重するかで自転車のコントロールが変わってくるんですけど、簡単に言うと固定ローラーはサドルにずっと座ってしまうことが出来るんです。人間、楽な方に楽な方に体を使ってしまうので、座れたら座ってしまうんです。固定ローラーだとお尻が痛くなるという人も多いのはこのせいです。では、座るなといったらどうするかというと、大体の人はハンドルに荷重をかけてしまうんです。そうすると肩が痛いとなってしまいます。そして、ハンドルに荷重をかけるなといえば、サドルに座ってしまう。
グロータック 木村(以下、木村):ペダル踏めよっていうね。
福田:そういうことなんです。木村さんは簡単に言いますけど、ペダルに乗るのは難しいんです。そこで僕が自転車トレーナーをやっているところにつながるわけです。人間って自分が出来ることを一生懸命頑張るんです。それは目的に対してある程度はリンクしていることも多いですが、リンクしていないところを一生懸命頑張ってしまう人もいるわけです。ここでさっきの「日本語で話すか英語で話すか問題」です。英語をうまく発音できるようにと考えたときに、自分で教科書をにらみながら、いくら大きな声で素早く発音の練習をしたところで、英語の発音はうまくならないです。英語の発音がうまくなるには、一つ一つ分解して、1音1音の音を正しく発音する練習をして、それを繋げられるようにして、速く話せるようにして、と順序だてて上手くなるわけです。これは全てに言えることで、そもそも基本的なことが欠落して練習している人がすごく多い。これは僕も最初そうだったんです。もちろん、基本的なことが出来ていなくても、練習していればある程度まではいきますが、結局ある程度までしか行かないんです。
木村:固定ローラーは実走で弊害になる乗り方で練習してしまう。
福田:そうですね。そんな乗り方、実走でしないでしょ、という乗り方が出来てしまって、そのまま練習が出来てしまう。どんな無理のある動き方でも、人間練習すれば出来るようになってしまう。それを練習してしまうのがダメなんです。言ってみたら、大声でそれっぽい英語を話す練習をするみたいな?
──固定ローラーでの練習は良くないということですか?
福田:いえ、固定ローラーがダメという話ではありません。自転車に乗るのがうまい人は固定ローラーに乗っても実走と同じように乗ることが出来るんです。そうではなくて、固定ローラーでしか乗れない乗り方を覚えて、そればかりやってしまうと良くない。例えば、固定ローラー特有のパワーの出し方もあるみたいで、そういうことを編み出して覚えてしまったりするので。
──ZWIFTER*の方で、そういうのを研究している方もいるみたいですね。
福田:ZWIFTを楽しむうえでは、それが悪いわけではないですが、実走で上手く走りたいのであれば、実走で再現できる走り方をしないといけないわけです。その実走を上手く走るために気にしなければならないのは、自転車が二輪車ということです。自転車は曲がりたければ前輪に荷重をかければ曲がりますし、後輪駆動車なので後ろに荷重をかければ進むんです。座っている分には進むので、まだいいのですが、そのままだと曲がれなくなってしまう。だから、後ろ荷重では上手く曲がれないので、多くの自転車トレーナーの皆様は「自転車の真ん中に乗れ」というわけです。では、自転車の真ん中というのはどこなのか、という話になります。それは、「ここにいれば、前にも後ろにもいつでも体重移動が出来る位置」ということです。
*ZWIFTER:バーチャルライドアプリ「ZWIFT」で走る人達の総称
──他のスポーツでも同じことが言えそうですね。
福田:スキーやスノーボードも、体重移動で曲がったり加速したりしますよね。スポーツは重心をコントロールできることが大切なんです。
実走に向いているローラー台はあるのか?
──3本ローラーはよくバランストレーニングに良いといいますよね。
福田:3本ローラーに乗ることが目的になっていると、違います。3本ローラーに乗せるのに必死なトレーナーもいるのですが、その時何をするかというと、サドルを後ろに引いて乗らせるんです。3本ローラーは後輪に荷重があれば安定するんです。逆に前輪に荷重をかけると危ないと感じるんです。それだと固定ローラーと同じで3本ローラー特有の乗り方になってしまう可能性があるんです。そこで、4本ローラーであるGT-Roller Q1.1は前輪にも荷重がかけられるので、自由な乗り方がしやすいというところが良い点です。前後に荷重がかけられるので、ダンシングもしやすい。とはいえ、ダンシングがうまい選手は3本ローラーでも上手にもがきます。体が一か所にピタッと止まって、下半身だけが動いているんです。普通の人はなかなかそれは出来ない。
──それは実走でもベストということなんですか?
福田:そうです。自転車は前に進むものなので、基本的に重心は前後左右にあまり動かないほうがいいんです。重心は進行速度に応じて、ただ前へと移動していくべき。重心が大きく動くと、振り子みたいになってしまうので、ブレーキがかかって加速して、の繰り返しになってしまうわけです。
──3本ローラーを自由自在に乗れることが、体の使い方の上手い人ということになるということですよね。
福田:自転車コーチによっては、3本ローラーを前後反転させて乗せてみるということがあると思うんですが、それは重心の位置をコントロールさせるという意図があるわけです。逆にした分、後ろ荷重では上手く乗れないですから。結局のところ、ペダルに乗れない限りはハンドルかサドルかのどちらかの荷重になってしまうので、そこをどうコントロールするかが重要です。
木村:3本ローラーもクルクル回すのに必死になってると、サドルに座っちゃいがちだよね。
福田:それが3本ローラーの弊害でもあります。3本ローラーは負荷が軽いものが多いので、べダルに乗る感覚が掴みづらい。
木村:そう。だからうちのGT-Roller T1は負荷が付いている。
福田:負荷が付いていると、踏み込むことが必要になってくるので、サドルに座っているだけにはいかなくなってくる。前にいてもダメだし、後ろにいてもダメだし。
木村:重心は、自分の手の内の中にあることが重要。重心を見失わないで自転車をこいでいられるか。
福田:僕の定義する「ペダリング」というのは、効率的にペダルに体重を乗せていく動作と考えています。それが人によっては、サドルにどっかり座って脚を回転させるために、脚を曲げたり伸ばしたりする運動になっているんです。先ほども言いましたけど、どんな方法でもある程度までは力が付きますが、そのうち限界が来ます。そこから癖のついてしまったものを直すのは難しい。だからこそ、最初からしっかりと「ペダルに体重を乗せていく」ペダリングをしていきましょう。というのが僕の考え方です。
──私は自転車のトレーニングを始めたときからパワートレーニングをしていて、パワーを目標値に持ってきてトレーニングをし、パワーを上げることは効率的にできたのですが、自転車をコントロールすることは苦手でした。ローラーの上でも、重心の位置などを意識すれば、自転車のコントロールに対してのアプローチが変わってくるのかなと思いました。
福田:例えば僕がコーチするとき、ローラー台でも片手離しやってもらうことがあります。これ、片手離しなら両手離しのほうがいいんじゃないかって思われることがあるんですが、それは違います。
──両手離すと、後ろに重心を持っていってしまうってことですか?
福田:そうです。両手を離すと、サドルに座ってしまうんです。片手の場合は、重心が動かないように片手でしっかりと支える必要があります。
木村:GT-Roller F3.2やGT-Roller M1.1に乗っていても、片手離してリモコンを取ろうとしたらバランス崩してコケてしまう人とかもいるね。
福田:自転車の上で体を動かしたときに、無意識のうちに重心を大きく動かしてしまうんですよね。実走でも、走っている途中に後ろ振り返ったら、ハンドルが切られて振り返った方向に斜行する人いますよね。あれは重心の位置が変わっているからなんです。重心の位置を変えないように振り返れば、そうはならないはずなんです。
木村:確かに片手離しは練習になるかもしれない。3本ローラー系じゃなくても、GT-Roller F3.2でも片手離して振り返ったら、バランス取れない人は後輪の位置がずれてまっすぐにならないんじゃないかな。
福田:振り返らなくても、自転車に乗りながら片手を離して逆側の脇腹を触るポーズを取ってみれば、バランス取れているかわかります。まず、ダメな人は腕をつっぱってしまっているんですね。
自転車に乗る「体の使い方」を理解する
福田:バランスについて、体験してみましょうか。まず四つん這いになってください。
──(インタビュアー地面に四つん這いになる。)
福田:この時、腰を反らさないでください。そして、背中にペットボトルを置きます。このペットボトルを倒さないように、右手を床から離してください。そして、左の脇腹を触ってください。そうすると、体幹に力を入れていないと支えられないですよね。
──確かに力が入っている気がします。
福田:脇腹を触っているあたりに力を入れると安定しますよ。そしたら、右手をゆっくり戻して手をついてください。次は左手を離します。切り替えが重要です。体幹を全く動かさないように意識して、左手を離してみてください。
──(左手を離す。)
福田:こっち弱いですねー。
木村:あー、傾いてる。
──体、傾いてるんですね。(自覚症状なし)
福田:とはいえ、ペットボトルは倒れていないですし、そこまで悪くはありませんよ。
──でも右手はプルプルしてますよ。笑
福田:肩甲骨が浮いてきているんですけど、それを引っ込めるようにしてください。
──楽になりました。
福田:次は、先ほど言ったように、腕をつっぱってみてください。そのまま体をだらっと寄っかかるようにしてみてください。それで手を離してみたらどうですか?
──不安定になりますね。
福田:そういうことなんです。
──面白いですね。確かに私は、普段自転車乗るときも、右手を離すのは何の問題もないのですが、左手を離すと自転車のコントロールが不安になってしまい、これと全く同じことが起きています。その原因は体のバランスが取れていないということがよくわかりました。
福田:僕は、自転車乗りも腕立て伏せ等の筋トレをして鍛えるようにとよく言っているのですが、それは体のバランスを鍛えるために必要なんです。
──腕立て伏せが上手にできると、バランス感覚が良くなるということですか?
福田:なりますよ。腕だけに力を入れるのではなく、先ほど言った体幹を意識してやると、無駄な力なく腕立て伏せをすることが出来ます。これで、体のバランスを鍛えることが出来ます。
木村:これは、いかに力を入れないで、出力を出すかというところだね。現役時代、いかに呼吸を普通にしながら、最大筋力を発揮するかということを絶えずやってた。
福田:まさにその通りなんです。もう一つやってみましょうか。座ったまま脚を上げてみてもらっていいですか、その脚を僕が持ちますので、脚の力を抜いてください。(脚を左右に振る)まだ力が入ってます。もっと抜いてください。もっと抜けます。(と、脚を左右に振りながら力が入っているかを確認する)
──そもそも、力を抜くのが難しいですね。
福田:そうなんです。力が抜けましたね。(脚を手に持ったまま)そしたら脚を力をいれて延ばすのではなく、くるぶしを下に落とす感覚で、脚を延ばしてください。
──(脚を延ばす)
福田:いま、脚を伸ばすために、脚にすごく力が入ってますよね。むしろ脚を伸ばさない方向に。ただ脚を伸ばすだけなら、こんなに力をいれる必要がないんですが、上手く脚を伸ばせないと、脚を伸ばさない方向にも力を入れながら伸ばそうとしてしまうんですね。これがペダリングにも言えることで、余計な力が入らず、ペダリングの方向のみに力を入れられれば効率的ですよね。
木村:伸ばす方向以外の力を使わないようにするのに、コツをつかむのに3年くらいかかったと思う。今も出来てるかはわからないけど。
福田:人間は数値目標があると、なんとかそれを達成しようと頑張ってしまうんですが、無駄な力を使ってペダリングすると、すぐに踏めなくなってしまう。そればかりをやっていると、無駄に力を入れて無駄に疲れてしまうような練習ばかりになってしまうわけです。しかも負荷がスゴイからやった感は高い。ウェイトリフティングのような一瞬の爆発力のみが必要な競技はそれでもいいかもしれませんが、エンデュランス競技はなるべく最初から最後まで身体に変化が出ないように力をいれていくほうが間違いなく、お得です。だから、脚になるべく無駄な力を入れずに、パワーを出す練習をしていくべきなんです。実走と違う感覚だからローラー台が悪いわけではなく、実走でもローラーでも正しく練習出来ることが重要。そういった意味ではローラー台は何でもいいんです。こんなことを言うと、パワーメーターは必要ないのかという話になりますが、そうではありません。数字達成のみを目標に練習をするのではなく、しかるべき練習をして、どれくらいの数字が出せるようになったかという、結果の評価に使うほうが良いと僕は思っています。
(後編へ続く・・・)
後編は、「体の使い方を覚えたらどのような効果があるのか、ローラー台でのトレーニングにて意識すると良い点、グロータックのローラー台について」を中心に伺っていきます。
福田昌弘
トレーニングスタジオ「ハムスタースピン」代表、日本スポーツ協会公認自転車コーチ。
大学院でペダリングの研究も行ない、海外の学会などでも発表を行っている。ただ自転車に乗るだけではなく、そのために必要な動作の解析やトレーニングを得意としている。
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