東京都稲城市矢野口。
サイクリストの一大拠点でも知られるこの地に、自転車ショップ「TRYCLE」があります。
2021年4月に立川から矢野口に移転しました。(以前のインタビューはこちら)
移転後の変化や、トライクルの今後の展望、またグロータックの製品について、代表の田渕君幸さん、店長の橋本規行さんにお話しを伺いました。
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移転して変わったこと
──トライクルが矢野口に移転しましたが、何か変化はありましたか?
田渕君幸さん(以下、田渕):まず第一には、お客さんの数が増えました。そもそも、ここ矢野口はサイクリストの人口が圧倒的に多いですよね。立川の時はSNSでの発信やお客さんの口コミでしか、トライクルの場所を知ってくれなかったんですけど、今はロードサイドでサイクリストは目の前を通っていくので、純粋に「こんなところに自転車屋があったんだ」という新規のお客さんが増えました。特に、ライトな層が増えた印象です。
また、立川の時は市の建物だったのでやれることに制限があったのですが、移転してからはやりたいことが自由に出来るようになりました。
──例えばどのようなことが変わりましたか?
田渕:夜の練習会ですね。立川の時は建物が早く閉まってしまうことに加えて、そもそも暗すぎて練習会自体が難しかったです。今は定期的に夜の練習会を開くことが出来ていますね。
また、夜に飲み食いしても問題ないので、チームメイトとの交流の場になったりしています。
逆に悪かったこととしては、面積が狭くなってしまったので、モノの置き場には困っています。
──移転してからはチームの発足もされましたね
田渕:それに関しては、立川で出来なかったというより純粋にリソースが足りていなかったんです。矢野口に引っ越してきてスタッフも増えたのもあり、そろそろ動き出そうということで、一歩を踏み出し始めました。
こうしたコミュニティとしての場というのは、自転車ショップとしてのあるべき姿の1つだと思っているので、僕はそこを広げていきたいです。
技術的な所は、ノリさん(橋本さん)やオギー(荻田さん)に任せて、僕はコミュニティの方に注力していきたいと思っています。
「サイクリストの場」と、飲食店の難しさ
──以前のインタビューでは、自転車のソフトを作るという話をされていましたが、チーム運営のほかに、何か新しいソフトは考えていますか?
田渕:正直言えば、新しいソフトの着手は出来ていないです。今はまず「場をつくる」というフェーズかなと思っていて、ソフトを作るというフェーズには入っていません。
具体的な場としては、僕の中で「飲食」をやってみたかったというか、外せないです。今、トライクルの飲食店を立ち上げるために、自転車とは全く関係のない別業態で飲食店の経営をしています。その経験を活かして、トライクルのお店が立ち上げるのが今のところの目標です。ソフトを作るのは、その次のフェーズかなと。
──ちなみに、今はどんな飲食店の経営をされているのですか?
田渕:大きなショッピングモールのフードコート内にある海鮮丼屋です。なぜ海鮮丼屋かというと、周りにマックや、すた丼、王将等の有名なお店が並んでいる中に海鮮系だけなかったんです。本来、トライクルがやりたいことはカフェなんですけど、近くにスターバックスやドトールがある中、フードコートにカフェを出しても勝てるわけがないので、勝てる分野で勝負してみようということで、海鮮丼屋を始めたんです。
この飲食店は、契約期間が今年の9月までと決まっていて、経験を積むのにちょうどよかったんです。
──実際に飲食店を経営してみて、いかがですか?
田渕:トントンですね。規模が大きいと、動くものも大きいので。
中でも何が一番大変かというと、アルバイトの方々の生活を支えるというプレッシャーですね。もちろん、トライクルでもオギーがいますけど、1人2人ですと、お手伝い感があったんですね。今は10人位のアルバイトの方はお金を稼ぎに来ているので、雇っている側になったという実感があります。正直、かなりキツイです(笑)。
また、自転車屋と飲食店って、全然違くて。飲食店は原価率があって、食材費が1-2%上がるだけで、1か月の利益が全然違ったりとか、細かい積み重ねが重要なんです。僕は大雑把なので、苦しめられています。
──その経験を活かして、トライクルではカフェをやるということですよね。
田渕:僕が本当にやりたかったのは、カフェ&バーなんです。自転車の場としてもやりやすいし、利益としてもそうですし、協力してもらう料理長の得意分野もそうですし。ということで、確定ではないですが、カフェ&バーの形態で行こうかなと思っています。
──どのような自転車の場にしたい等はありますか?
田渕:理想としては、トライクルの隣に飲食店があるようにはしたいのですが、物件の都合等色々問題はあるので、現実的ではないと思っています。
まずはサイクルラック等が置いてある、自転車がコンセプトのカフェというところから、最初の一歩としてのスタートしてもよいのかなと思っています。そのカフェが、自転車乗りの人たちの集合場所・解散場所になるような、ハブとなる場にしたいですね。そのため早朝から集まるサイクリストのために、モーニング等もやってみたいなと思っています。
メカニック視点からの変化
──メカニックとしては、移転してから何か変化はありましたか?
橋本規行さん(以下、橋本):お客さんが増えたことによって、より多様化しました。ライトな層からコアな層まで。
──多様化したとのことですが、具体的にはどんなことがありましたか?
橋本:他の自転車屋さんだと断られてしまった、ちょっとした加工とかですね。例えば、ディレイラーハンガーのフレーム側のネジ山がつぶれてしまったのでそこの修理だとか。
他には、キャニオンを直接トライクルに送ってもらって、組み立てをするサービスをしているのですが、それもすごい増えました。
後は、ガラスコーティングですね。近くでやっているところがないらしく、特に最近は増えましたね。
EQUAL 機械式ディスクブレーキキャリパーセット」について
──話は変わりますが、弊社の製品「EQUAL 機械式ディスクブレーキキャリパーセット」についてお伺いします。田渕さんはシクロクロスで使用していただいているとのことですが、いかがですか?
田渕:油圧と比べても遜色ないです。シクロクロスのレースには数戦出ましたけれど、ブレーキの効きが悪くて怖かったり不安感がある等といったことは、全くないですね。
シクロクロスは、余っていたコンポーネントを使用していて、それが機械式だったので、このブレーキ一択だったなと。そういうユーザーさんも多いのではないでしょうか。(橋本さんに)お客さんからだとどうですか?
橋本:ネガティブな話は今のところないです。EQUALを採用してくれるお客さんは、リムブレーキからの載せ替えのため、初めてディスクブレーキにする人が多いです。
そのため油圧との比較の声はあまり聞きませんが、リムブレーキよりも効くことは確かですね。また、輪行やメンテナンス等の油圧特有の気を使わなくても良いので、リムブレーキの時と特に何も変わらない運用が出来るという声を聞いています。
──メカニックとしての感想はありますか?
橋本:ハンドルからのフル内装フレームですと、ハードアウターは固いので最初はどう組むかはとても悩みましたね。ソフトアウターとハードアウターの連結があるというのが特殊なので。とはいえ、コツをつかんでしまえば、悩まずに組めるようにはなりました。アウターを通してしまえば、あとはインナーを通すだけなので、油圧のブリーディングに比べれば楽です。
──「フル内装フレームで組めますか?」という質問が良く来るのですが、今まで組んできて問題はありましたか?
橋本:実際、トライクルにも問い合わせが来たことがありますが、今まで組んで来たフル内装のフレームでは、特に問題なく組むことが出来ています。もちろん、ハンドルやフレームの形状によっては組むのが難しいものもあると思います。
グロータックに期待すること
──今後グロータックに期待することはありますか?
田渕:日本の新しいコンポーネントブランドとして頑張ってほしいです。
グロータックはローラーメーカーというイメージでしたが、こうして立ち上がった日本のコンポーネントブランドでいろんな人がサイクリングを楽しんでもらえたら、ワクワクしますね。
橋本:コンポーネントメーカーというと大手というイメージが強いので。こういっては何ですがニッチな需要をしっかりとした技術で形にしてくれるメーカーとして期待しています。「こういうのがあれば」という理想をさらに吸い出す力を突き詰めていただけると、ショップ側の人間としても助かりますね。
──それでは、具体的にはどの様な製品が欲しい等の要望はありますか?
橋本:例えば自転車屋の悩みの1つは、ヘッドやボトムブラケットの規格が多いところです。それらの規格をこれ一つで解決できるような製品があると、非常に嬉しいですね。どうすれば出来るかはわかりませんが。
──ありがとうございました
田渕君幸
大学時代に「弱虫ペダル」をキッカケに自転車に熱中。卒業後は自転車メーカーに就職後、発信者としてSNSを活用。2018年「J PRO TOUR」に参戦。2019年には「アメリカ大陸横断」を達成。 帰国後2020年に東京都立川市にて自転車ショップ「TRYCLE」を設立。
橋本規行
自転車の街、宇都宮市育ち。自転車好きが高じてサラリーマンから自転車屋の道へ。気づけば歴14年、ふとしたキッカケで知り合ってすぐに田渕と「TRYCLE」を設立。